
右下腹部が 痛い、も しかして 盲腸? ——実は 多い 「回腸末端炎」の こと
「右のお腹の下のほうが痛くて……盲腸だと思って来たんです」。これまでの診療の中で、そう心配して受診された方が、検査の結果「盲腸ではなく、回腸末端炎(かいちょうまったんえん)ですね」とお伝えすることになったケースは、決して少なくありません。
「盲腸じゃなかったなら良かった」と思う一方で、初めて聞く病名に戸惑い、家に帰ってインターネットで調べてみたら「クローン病」「難病」といった言葉が出てきて、かえって不安になってしまった——そんなお気持ち、とてもよく分かります。
この記事を読んでいただくと、回腸末端炎がどんな病気なのか、盲腸(急性虫垂炎)とどう違うのか、そしてどんなときに詳しい検査が必要なのかが分かります。結論から言うと、回腸末端炎の多くは、細菌などによる一時的な腸の炎症で、自然に、あるいはお薬で良くなることが多いものです。ただし、中には詳しく調べたほうがよい原因が隠れていることもあるため、きちんと診断して、原因を見極めることが大切です。
「回腸末端」は、 盲腸の すぐ隣に あります
小腸は、胃から続く長い腸で、最後の部分を「回腸(かいちょう)」と呼びます。その回腸の終わり、ちょうど大腸につながる手前の部分が「回腸末端」です。
そして、この回腸末端がつながる大腸の入り口が「盲腸」で、いわゆる「盲腸(の病気)」と呼ばれている虫垂(ちゅうすい)は、その盲腸からぶら下がっている細い突起です。つまり、回腸末端と虫垂は、右下腹部のほぼ同じ場所に、隣り合って並んでいるのです。
そのため、どちらに炎症が起きても、痛む場所がとてもよく似てしまいます。「右下腹部が痛い=盲腸」と考えるのは自然なことですが、実際には盲腸(虫垂炎)以外の原因で痛んでいることも多く、その代表が回腸末端炎です。
回腸末端は、 炎症を 起こしやすい 「腸の関所」
回腸末端は、小腸から大腸へ食べたものが移っていく「関所」のような場所です。ここでは、栄養の吸収の仕上げ(ビタミンB12や胆汁の成分の吸収など)が行われています。
さらに、回腸末端の壁には、「パイエル板」と呼ばれる免疫の拠点がたくさん集まっています。腸に入ってきた細菌やウイルスを見張り、体を守るための大切な仕組みです。ところが、その分、外から入ってきた細菌などに反応して、むくみや赤み(炎症)を起こしやすい、デリケートな場所でもあるのです。
盲腸 (虫垂炎)と 回腸末端炎、 症状の 違いは?
どちらも右下腹部が痛む病気ですが、症状の出方にはいくつか違いがあります。
- 痛みの始まり方:虫垂炎は、最初はみぞおちやおへその周りが痛み、数時間〜半日ほどかけて右下腹部へ痛みが移動することが多いのが特徴です。一方、回腸末端炎は、最初から右下腹部が痛むことが多くみられます
- お通じの変化:回腸末端炎では、下痢や水のような便、お腹の張りを伴うことが多くあります。虫垂炎でも下痢が出ることはありますが、吐き気や食欲のなさが目立つことが多いです
- 発熱:どちらも熱が出ることがあり、熱だけでは区別できません
ただし、これはあくまで「傾向」です。症状だけで両者をはっきり見分けることは、医師にとっても難しいことがあります。特に虫垂炎は、放っておくと破れて(穿孔して)腹膜炎になるおそれがあるため、「たぶん腸炎だろう」と自己判断せず、検査で確かめることが大切です。
回腸末端炎の 主な 原因は、 大きく 3つ
回腸末端炎は、ひとつの病気の名前というより、「回腸末端に炎症が起きている状態」を表す言葉です。原因は大きく次の3つに分けられます。
1. 細菌などによる感染性腸炎(いちばん多い原因)
最も多いのが、カンピロバクター(鶏肉の生焼けなどが原因になりやすい菌)や、エルシニア(豚肉や汚染された水などから感染する菌)などの細菌による、一時的な腸炎です。特にエルシニアは、回腸末端に炎症を起こしやすく、虫垂炎とそっくりの症状が出ることで知られています。
このタイプは、多くの場合、数日〜1、2週間ほどで自然に良くなります。水分をしっかりとって、お腹を休めることが基本で、症状によってはお薬を使うこともあります。
2. お薬やストレス、腸内環境の乱れ
痛み止めとして使われる解熱鎮痛薬(NSAIDs:ロキソプロフェンなど)は、胃だけでなく小腸の粘膜も傷つけることがあり、回腸末端の炎症の原因になることがあります。また、強いストレスや、腸内環境の乱れが関わっていると考えられることもあります。
普段飲んでいるお薬は、診察の際にぜひ教えてください。お薬手帳があると、とても助かります。
3. 慢性的な炎症性の病気(詳しく調べる必要があるもの)
頻度は高くありませんが、クローン病などの炎症性腸疾患や、腸結核などが、回腸末端の炎症として見つかることがあります。これらは、適切な診断と、継続的な治療が必要な病気です。
ネットで「クローン病」という言葉を見て不安になった方も多いと思いますが、回腸末端炎と言われた方の多くは、1や2の一時的な炎症です。ただ、症状が長引く、何度も繰り返す、体重が減る、血便が出るといった場合は、こうした病気が隠れていないか、詳しく調べることが大切になります。
当院での 検査と 診断の 進め方
右下腹部の痛みでは、「虫垂炎なのか、回腸末端炎なのか、それ以外なのか」を見極めることが何より重要です。当院では、次のような検査を組み合わせて診断します。
- 血液検査:白血球や炎症反応(CRP)の数値から、体の中でどのくらい炎症が起きているかを確認します
- 便の検査:下痢がある場合は、必要に応じて便を調べ、原因となる細菌を確認します
- 腹部エコー(超音波):お腹に器械を当てるだけで、痛みも被ばくもなく、虫垂の腫れや、回腸末端の壁が厚くなっていないか(壁肥厚)を確認できます
- 腹部CT:院内のCTで、虫垂と回腸末端の状態や、周りへの炎症の広がりを、その日のうちに詳しく確認できます。「虫垂が腫れているのか」「回腸末端の壁が厚くなっているのか」の見極めに、とても役立ちます
検査の結果、炎症が長引いている場合や、慢性の病気が疑われる場合には、大腸カメラ(大腸内視鏡)で回腸末端まで直接観察し、必要に応じて組織を少し取って調べます(生検)。大腸カメラが必要な場合は、連携する医療機関にご紹介します。
また、虫垂炎で手術が必要と判断される場合も、速やかに対応できる医療機関へご紹介します。
院長からの メッセージ
「回腸末端炎」という聞き慣れない病名に、驚かれた方も多いと思います。けれど、きちんと検査をして原因を見極めれば、過度に怖がる必要はありません。多くの場合は、しばらく様子を見たり、お薬を使ったりすることで、良くなっていきます。
大切なのは、「たぶん大丈夫だろう」と我慢しすぎないことです。消化器外科医として、これまで多くの虫垂炎や腸の病気の患者さんを診てきました。右下腹部の痛みには、早めの判断が必要なものと、落ち着いて経過を見てよいものの両方があります。その見極めこそが、私たち医師の役割です。
右下腹部の痛みや、下痢・お腹の違和感が続くときは、どうぞ我慢せずにご相談ください。一緒に原因を確かめていきましょう。
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