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木花のむら総合診療所内科・外科・小児科
「抗酸菌」は酸を出す最強の菌?——名前のせいで誤解されがちな菌の正体
健康・予防の話

「抗酸菌」は酸を出す最強の菌?——名前のせいで誤解されがちな菌の正体

「検査で抗酸菌が出ていますね」。健診の再検査や、長引く咳で受診された方にそうお伝えすると、少し身構えた表情をされることがあります。「抗酸菌……酸を出す菌ですか?」「胃酸も平気な、すごく強い菌なんですか?」。これまでの診療の中で、そうした質問をいただいたことは一度や二度ではありません。

確かに、「抗酸」という字面だけを見ると、酸をまき散らす凶悪な菌や、何にも負けない無敵の菌を想像してしまいますよね。

この記事を読んでいただくと、抗酸菌という名前の本当の意味と、この菌がなぜ「手ごわい」と言われるのかが分かります。そして、なぜ抗酸菌の治療には何か月、ときには年単位の時間がかかるのか、なぜ痰の検査がそれほど大切なのかにも、納得していただけると思います。結論から言うと、「抗酸菌」は酸を出す菌ではなく、「強い酸で洗っても色が落ちない菌」という、検査の性質からついた名前です。

実は「実験室の都合」でついた名前

「抗酸」は「酸に抵抗する(色が落ちない)」という意味

「抗酸菌」の「抗酸」は、「酸を出す」という意味ではありません。「酸に抵抗する」、つまり「強い酸で洗っても、染めた色が落ちない」という意味なのです。

細菌はとても小さく、そのままでは顕微鏡で見えにくいため、検査では菌に色をつけて観察します。このとき、ほとんどの細菌は酸で洗うと色が落ちてしまいますが、抗酸菌だけは、酸で洗っても色が残る。この性質から、「抗酸性の菌=抗酸菌」と呼ばれるようになりました。

「特殊な絵の具」と「強力な酸」で洗う検査

この検査(チール・ネールゼン染色などと呼ばれます)を、身近な例えでご説明します。

  • ① 赤い特殊な絵の具で、しっかり染める:痰などに含まれる菌を、赤い色素で染めます。抗酸菌は染まりにくいため、温めながら時間をかけて色をしみ込ませます
  • ② 強力な酸で洗う:次に、酸を含んだ液でゴシゴシ洗います。ふつうの細菌は、ここで赤い色がきれいに落ちてしまいます
  • ③ 青い絵の具で仕上げる:最後に青い色で全体を染めます

すると顕微鏡の中で、ふつうの菌は青く、抗酸菌だけが赤く浮かび上がって見えるのです。

つまり「抗酸菌」という名前は、菌が酸を出すからでも、胃酸に強いからでもなく、人間がこの検査をしたときの「色の落ちにくさ」から名づけられたもの。少し拍子抜けした方もいるかもしれませんね。

強さの秘密は「ロウ(蝋)」でできた鎧

細胞の表面が、分厚い脂のバリアで覆われている

では、なぜ抗酸菌は、強い酸で洗っても色が落ちないのでしょうか。

その秘密は、菌の表面にあります。抗酸菌の細胞の壁は、「ミコール酸」などの脂(あぶら)がたっぷり含まれた、ロウ(蝋)のような分厚い層で覆われています。

イメージとしては、全身に撥水ワックスを何重にも塗りたくった状態です。ロウソクのロウやワックスが水をはじくように、この脂の鎧が、外から来るものをはじいてしまいます。いったん染み込んだ色素も、同じ理由でなかなか流れ出ていかないのです。

鎧のせいで、多くのお薬や消毒薬が効きにくい

この「ワックスの鎧」は、色素だけでなく、多くの抗菌薬や消毒薬も通しにくくします。ふつうの細菌によく効くお薬の多くが、抗酸菌にはほとんど効きません。

さらに、抗酸菌にはとてもゆっくり増えるという特徴もあります。ふつうの細菌が数十分で倍に増えるのに対し、結核菌などは倍になるのに半日〜1日近くかかります。のんびり増える菌は、お薬の影響を受けにくい状態でじっと身をひそめていることがあり、これも治療を難しくしている理由のひとつです。

代表的な抗酸菌は「結核菌」と「非結核性抗酸菌(NTM)」

抗酸菌の仲間で、よく知られているのが次の2つです。

  • 結核菌:結核の原因になる菌。人から人へうつるため、診断されたら保健所への届け出が必要です
  • 非結核性抗酸菌(NTM):結核菌以外の抗酸菌の総称。土や水まわりにいる菌で、人から人へはうつりません。近年、日本で患者さんが増えている「肺NTM症(肺MAC症)」の原因です。症状や原因については、肺NTM症(肺MAC症)の記事で詳しくご紹介しています

同じ「抗酸菌」でも、うつるかどうか、どんなお薬を使うかがまったく違います。だからこそ、どの抗酸菌なのかを見分けることが、とても大切になるのです。

だからこそ「じっくり治療」と「痰の検査」が大切です

頑丈な鎧を破るには、何種類ものお薬を長く

ワックスの鎧をまとい、ゆっくり増え、じっと身をひそめる——そんな抗酸菌を退治するには、短期決戦というわけにはいきません。

  • 何種類ものお薬を組み合わせる:1種類だけでは、お薬に負けない「耐性菌」が生き残りやすいため、複数のお薬で同時に攻めます
  • 長い期間、続ける:結核ではふつう半年以上、肺MAC症では菌が出なくなってからさらに1年以上、お薬を続けるのが一般的です

「症状が良くなったから」と途中でお薬をやめてしまうと、生き残った菌が再び増えたり、お薬の効かない菌に変わってしまったりするおそれがあります。長い治療には、ちゃんと理由があるのです。

画像だけでは、どの菌か分からない

胸のレントゲンやCTは、肺に影があるかどうか、その形や広がりを知るのにとても役立ちます。けれど、その影が結核なのか、NTMなのか、あるいはまったく別の病気なのかは、画像だけでは確実には分かりません。

そこで欠かせないのが、痰の検査(喀痰検査)です。

  • 顕微鏡で、先ほどの「赤く染まる菌」がいるかを調べる
  • 菌を育てて(培養して)、どの種類の抗酸菌なのかを確かめる
  • 遺伝子の検査で、結核菌かどうかを素早く調べることもある

抗酸菌はゆっくり増えるため、培養の結果が出るまでに数週間かかることがあります。また、1回の痰では菌が見つからないこともあるため、日を変えて何回か痰を出していただくのが一般的です。

痰の検査をうまく受けるコツ

  • 朝起きてすぐの痰が、菌が見つかりやすいとされています
  • 先に水で軽くうがいをして、口の中をきれいにしてから
  • 唾液ではなく、胸の奥から「ゴホン」と出した痰を容器に入れてください

院長からのメッセージ

「抗酸菌」という名前は、聞くと少し怖く感じるかもしれません。けれど実際は、酸を出す菌でも、何にでも勝つ無敵の菌でもありません。ただ、ワックスの鎧をまとった、少し手ごわく、じっくり付き合う必要がある菌なのです。

痰の検査は、何度もお願いすることがあって面倒に感じるかもしれませんが、どの菌なのかを正しく見極め、あなたに合った治療を選ぶための、いちばん確かな手がかりです。そして治療が始まったら、長い道のりを途中で投げ出さないよう、一緒に伴走していきたいと思っています。

長引く咳や痰が続くとき、健診で「抗酸菌」「要精査」と言われて不安なときは、どうぞ一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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