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木花のむら総合診療所内科・外科・小児科
「光でがんを温める」研究に打ち込んでいた頃の話
院長のキャリア

「光でがんを温める」研究に打ち込んでいた頃の話

今年(2026年)7月、「がん細胞を熱で破壊する『光熱療法』実現へ新技術」というニュースが、Yahoo!ニュースにも掲載されました(ニュースイッチ/日刊工業新聞社)。東北大学などの研究グループが、光を熱に変える微粒子をがんに届けやすくする新しい技術を開発し、マウスの大腸がんが消失したという内容です。ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

「がんを光で治す」と聞くと期待が膨らむ一方で、「本当にもう受けられるの?」「どこまで進んでいるの?」と、かえって分からなくなってしまう方も少なくないと思います。

実はこのニュースを見て、懐かしい気持ちになりました。私は外科医としての経験を積んだあと、防衛医科大学校の大学院(医学研究科)で、まさにこの「光を使ってがんを温める治療」の研究に取り組んでいたからです。ニュースをきっかけに、今回はその成果として発表した論文と、日本ハイパーサーミア学会の会報に寄稿した解説をもとに、当時の研究を分かりやすくご紹介します。読み終えるころには、こうしたニュースを見たときに「これは今どの段階の話なのか」を落ち着いて受け止める手がかりになるはずです。

結論から言うと

私たちの研究で分かったことを一言でまとめると、「光の強さや当てる時間よりも、がんの温度を43℃以上に保てたかどうかが、効果を決めていた」ということです。そこで、照射中のがんの温度を測りながら、光の強さを自動で調整する仕組みを開発しました。

ただし、これはマウスを使った動物実験の段階の研究です。人の治療として承認されたものではなく、当院でこの治療を行うこともありません。その前提で、中身をお話しします。

「光温熱治療」とはどんな治療か

光温熱治療(PTT:Photothermal Therapy)は、熱でがん細胞を死滅させる治療で、「温熱療法(ハイパーサーミア)」の仲間です。体の中まで届きやすい「近赤外光」という光と、その光を吸収して熱に変える薬剤(光吸収剤)を組み合わせて使います。

仕組みはシンプルです。まず、がんに集まりやすい性質を持たせた光吸収剤を静脈から注射します。薬ががんに集まるのを待ってから、がんのある場所に近赤外光を当てると、光吸収剤が集まったがんの部分が温まります。「光を当てる場所」と「薬が集まる場所」の二重の狙い撃ちによって、周りの正常な組織への熱のダメージを抑えられると考えられており、体への負担が少ない治療として期待されてきました。

研究で見えてきた課題:「光の量」だけでは効果が読めない

ところが、この治療には悩ましい問題がありました。一般に、光の強さと当てる時間は照射の前に決めておきます。しかし、がんの大きさや中身のばらつき、薬の行き渡り方は一つひとつ違うため、同じ条件で光を当てても、効くがんと効かないがんが出てしまうのです。取りこぼしを避けるために光を強め・長めに当てると、今度はがんが50℃を超えるほど熱くなり、周りの組織にやけどや炎症を起こしやすくなります。

私たちは、がんに集まりやすい微小な粒子に、近赤外光を吸収する色素「ICG(インドシアニングリーン)」を組み込んだ「ICGラクトソーム」という薬剤を使い、マウスの大腸がん細胞を背中の皮膚に移植したモデルで実験を行いました。光の強さを4段階、当てる時間を5段階に変えて組み合わせ、照射中のがんの表面温度を測り続けたところ、はっきりした傾向が見えてきました。

  • 光の強さや時間と、がんが消えるかどうかの間には、一貫した関係は見られなかった
  • 一方、照射中にがんの温度が 43℃を超えた 場合は、光の強さに関係なく、49個中47個のがんが消失した(消えなかった2個は、照射時間が最も短い111秒の群でした)

つまり、効くかどうかの分かれ目は「光の量」ではなく「がんの温度」にあり、狙った温度に届き、それを保てるかどうかが治療の成否を左右していたのです。

温度を測りながら光を調整する仕組み

そこで開発したのが、温度制御型の光温熱治療(寄稿では「tecPTT」と呼んでいます)です。レーザー装置に、赤外線で「触れずに温度を測る装置」をつなぎ、照射している場所の温度を0.1秒ごとに測りながら、目標の温度を保つように光の強さを自動で調整する仕組みです。この装置の性能を確かめた最初の論文では、マウスの皮膚に光を当てた際の温度のぶれを、温度制御なしのときの10分の1以下(ばらつき約0.14℃)に抑えられることを示しました。

続いて、この仕組みを使い、目標温度を40℃・41℃・42℃・43℃に設定して、がんの経過を比べました(各5匹)。

  • 40℃・41℃:がんが消えたのは 0匹
  • 42℃:5匹中3匹 で消失
  • 43℃:5匹すべて で消失

わずか2℃の違いで、結果がまったく変わったのです。また、がんのない場所に光を当てても温度はほとんど上がらず、薬ががん以外にはほとんど集まっていないことも確かめました。温度を「狙って保てる」ようになったことで、必要以上に熱くしなくても確実な効果を得られる可能性が見えてきました。人の治療へと発展させていくための足がかりになると考えています。なお、照射部位の温度を測りながら治療する光治療システムとして、国際特許出願も行いました(WO2018/061201)。

一方で、限界もあります。測っていたのはがんの「表面」の温度で、内部の温度までは確認できていません。また、調べたのはマウスの大腸がん1種類だけで、他のがんでは効く温度が違うかもしれません。

どんながんに役立つ可能性があるか

光は体の奥深くまでは届きにくいため、この治療が向いているのは、主に体の表面に近いところや、内視鏡などで光を届けられる場所のがんだと考えられます。寄稿では、将来の候補として次のような場面を挙げました。

  • 放射線治療や化学放射線療法のあとに、局所に残ったり再発したりした食道がん
  • 消化管や気管の内側をふさいでしまい、治療器具を通すのが難しいがん
  • 大腸がんや卵巣がんがお腹の中に散らばった病変のうち、表面にある限られた病変

今後は、よりがんに集まりやすく、がんだけを狙い撃ちできる光吸収剤の開発が求められています。冒頭のニュースの研究は、まさにこの「薬をがんに届ける」部分と、「光を体の奥に届ける」部分(細い内視鏡を針に収めて、がんの内側から光を当てる方法)に取り組んだものです。同じ分野の研究が着実に前に進んでいることを、うれしく感じています。

ただし、ニュースの研究もマウスでの結果で、人での臨床試験はこれからの段階です。「ニュースになった=すぐに受けられる」ではない、という点は、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

院長からのメッセージ

この研究を通じて私が学んだのは、「なんとなく効いていそう」ではなく、測って確かめることの大切さでした。同じ治療でも、温度がわずか2℃違うだけで結果が正反対になる。その経験は、研究の現場を離れた今も、私の診療の土台になっています。

血圧や血糖値、検査の数値、そして患者さんの「いつもと違う」という感覚。日々の診察でも、思い込みで判断せず、きちんと確かめてから一緒に方針を考える。そんな姿勢を、木花の地で大切にしていきたいと思っています。

最近は、新しいがん治療のニュースを目にする機会も増えました。「これって自分にも関係あるの?」「今受けられる治療なの?」と気になったときは、開院後、どうぞ気軽にお尋ねください。今どの段階の研究なのかも含めて、分かりやすくお話しします。

※本記事は、以下の論文・寄稿(いずれも防衛医科大学校の共同研究者と共著)の内容を、一般の方向けに書き直したものです。紹介した結果はすべて動物実験によるもので、人での有効性・安全性が確認された治療ではありません。

  • Nomura S, et al. Highly reliable, targeted photothermal cancer therapy combined with thermal dosimetry using a near-infrared absorbent. Scientific Reports. 2020;10:9765.
  • Nomura S, et al. Thermal Sensor Circuit Using Thermography for Temperature-Controlled Laser Hyperthermia. Journal of Sensors. 2017;2017:3738046.
  • 野村信介ほか「これからの光温熱治療開発の方向性」日本ハイパーサーミア学会ニュース No.150「最近の話題」(2021年)

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